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[開催報告]発達障害をめぐる岐阜の現在地とこれから——サステイナブル・サポート10周年記念講演

【登壇者】左から堀田亮氏(岐阜大学保健管理センター准教授)、垣添忠厚氏(大垣女子短期大学教授)、安田和夫氏(岐阜聖徳学園大学教育学部)、教授井川典克氏(いかわクリニック院長)、後藤千絵(一般社団法人サステイナブル・サポート代表理事)、加藤永歳氏(社会福祉法人東京都手をつなぐ育成会法人事務局次長)

一般社団法人サステイナブル・サポート(代表理事:後藤千絵)は、2026年1月25日(日)、じゅうろくプラザ(岐阜市)にて、【発達障害をめぐる岐阜の現在地とこれから ~つながりの視点と未来を考える~】をテーマとした講演会・シンポジウムを開催しましたのでご報告いたします。


日時: 2026年1月25日(日)10:00~12:00

会場: じゅうろくプラザ 中会議室2

参加者:発達障害に関わる支援者・教育関係者・保護者・企業の方々約90名

第1部 基調講演

「発達障害とは何か ― 生きづらさの背景にあるもの」

いかわクリニック 院長 井川典克氏

第2部 シンポジウム

「岐阜の発達障害支援のこれまでとこれから 〜学齢期から社会へ、切れ目ない支援を実現するために必要な取り組みとは〜」

井川 典克 氏 いかわクリニック 院長

垣添 忠厚 氏 大垣女子短期大学 教授

加藤 永歳 氏 社会福祉法人 東京都手をつなぐ育成会 法人事務局 次長

堀田 亮 氏 岐阜大学 保健管理センター 准教授

安田 和夫 氏 岐阜聖徳学園大学 教育学部 教授

【ファシリテーター】

後藤千絵 一般社団法人サステイナブル・サポート 代表理事

当日は、教育・医療・福祉・就労支援・行政など多分野の専門家や関係者約90名が来場し、岐阜における発達障害支援の現状と今後の方向性について講義やシンポジウムに耳を傾けていました。


いかわクリニック 井川典克 院長

第1部 基調講演

「発達障害とは何か ― 生きづらさの背景にあるもの」

いかわクリニック 井川典克 院長

井川氏はまず、2005年の発達障害者支援法施行以降、国の施策が「早期発見・早期支援」から「就労・地域生活・高齢期」へと広がってきた流れを解説し、医療・福祉・教育・労働といった分野がそれぞれ制度整備を進める一方で、「法律や制度の“谷間”に取り残される人が依然として存在する」という現実にも触れられました。

講義の中で強調されたのは、「診断名や数値で人を理解したつもりにならないこと」です。

IQや発達検査、診断基準は支援の参考にはなるものの、それだけで本人の全体像を捉えることはできず、支援者側の都合で「困った行動」だけを切り取ってしまう危険性があると指摘されました。

また、支援の出発点として、「本人が困っているのか?周囲が困っているのか?あるいは双方が困っているのか?」という視点で状況を整理する考え方が紹介され、支援は一律ではなく、関係性づくりと見極めが何より重要であることが示されました。

さらに、青年期・成人期の支援においては、「立派になる必要はない。社会の中に“うまく溶け込む”ことが適応」という言葉が印象的でした。自分の特性を理解しつつ、周囲を観察し、必要に応じて工夫する力を育てることが、長期的な自立と就労の土台になると語られました。

今回の講義で印象的だったのは、「支援は“正しさ”よりも“寄り添い”から始まる」という内容です。本人が困っていない段階で過度な指導や修正を行えば、関係性は簡単に崩れてしまいます。一方で、まず話を聴き、安心できる関係を築くことで、初めて本人主体の選択や成長につながる支援が可能になる。その姿勢は、医療・福祉・教育・就労のどの分野にも共通する重要な視点だと感じられました。

また、「支援計画は支援者が作るものではなく、最終的には本人が自分で作れるようになることが目標」という考えを参加者に語られました。

参加された方からは

  • 困っているのは誰かを整理する視点が実践に活かせる
  • 自己理解や成功体験を重ねることの重要性を再認識した

という声が聞かれました。


第2部 シンポジウム

「学齢期から社会へ、切れ目ない支援を実現するために必要な取り組みとは」

【登壇者】

井川 典克 氏(いかわクリニック 院長)

垣添 忠厚 氏(大垣女子短期大学 教授)

加藤 永歳 氏(社会福祉法人 東京都手をつなぐ育成会 法人事務局 次長)

堀田 亮 氏(岐阜大学 保健管理センター 准教授)

安田 和夫 氏(岐阜聖徳学園大学 教育学部 教授)

【ファシリテーター】

後藤 千絵(一般社団法人サステイナブル・サポート 代表理事)

ファシリテーターを務めた後藤は冒頭、「発達障害」や「ダイバーシティ」という言葉が先行する中で、「便利な言葉の裏に隠れてしまいがちな一人ひとりの人生や関係性」に目を向けることの重要性を提示しました。

サステイナブル・サポートが就労支援の現場で出会ってきた多くの当事者が、高校・大学卒業後に働く場面でつまずき、初めて障害診断に至っている現状を共有し、「診断の有無にかかわらず、孤立させない支援の仕組み」が必要であると問題提起し、各パネリストにどのような「つながり」にかかわっているのかというところから議論がスタートしました。

井川典克 氏(いかわクリニック 院長)

ー傷つきを増やさない支援とはー

医療の立場から発言した井川典克氏は、発達障害支援において見過ごされがちな「二次的な傷つき」の問題を強調しました。

早期発見・早期支援の重要性が語られる一方で、「支援の名のもとに、本人の主体性を置き去りにした関わりが、新たな傷つきを生んでしまうことがある」と指摘。

支援者側の価値観や「こうあるべき」という思い込みが、本人に無理な方向づけをしてしまう危険性に警鐘を鳴らしました。

また、就労に関しては「正解の仕事を探すのではなく、合わないものを消していく“消去法”も立派な前進」と述べ、短期・単発の仕事などを通じて、失敗体験を最小限にしながら自己理解を深めていく重要性を語りました。

垣添忠厚 氏(大垣女子短期大学 教授)

ー幼少期・学齢期に必要な「見方」と「育ち」ー

幼児教育・特別支援教育の立場から登壇した垣添忠厚氏は、幼少期における支援の本質について「困りごとを直す前に、その子らしさや良さをどう育てるかが大切」と語りました。

義務教育に入ると強まりがちな「みんな同じことをやる」という平等主義が、結果として多様性を認めにくくしている現状を指摘。支援の出発点として、支援者や周囲の“見方”を変えることの重要性を強調しました。

加藤永歳 氏(社会福祉法人 東京都手をつなぐ育成会 法人事務局 次長)

20年以上にわたり発達障害支援に携わってきた加藤永歳氏は、「レジリエンス(回復力)」をキーワードに発言しました。

「転ばないようにする支援ではなく、転んでも起き上がれる力を育てることが大切」と述べ、自己理解、成功体験、自己肯定感、自己許容、援助要求の5つを支援の柱として提示。

また、本人支援だけでなく家族支援の重要性にも言及し、早期発見の意義は本人のためだけでなく、保護者と支援者が関係を築く時間を確保する点にもあると説明しました。

安田和夫 氏(岐阜聖徳学園大学 教育学部 教授)

ー高校・大学期における選択肢と自己理解ー

大学での学生支援に携わる安田和夫氏は、合理的配慮を巡る現場の葛藤を率直に語りました。

配慮を求める保護者に対し、「学生本人の努力や自己理解をどう伝えるか、そのバランスが非常に難しい」と述べ、自己理解・自己選択・自己決定の積み重ねが不可欠であると強調。

学生が自分の特性や必要な配慮を言語化する手段として、「自己紹介カード」の活用事例も紹介されました。

堀田亮 氏(岐阜大学 保健管理センター 准教授)

堀田亮氏は、大学カウンセリングの現場から「大学に向かない学生がいる、という事実を受け止める必要がある」と率直に発言。マルチタスクやプレゼンテーションを求められる大学の学習環境が、発達障害特性と合わない場合があることを指摘しました。

一方で、大学を離れ就労支援につながった後、職場で生き生きと働く姿を見た経験を共有し、

「大学でうまくいかなくても、社会で活躍できる道は確実にある」と、多様な選択肢の重要性を語りました。

就労と「働き方」の再定義

ディスカッションでは、「働くこと=正社員就職」という固定観念についても議論が及びました。

井川氏は、体験を通じた自己理解の重要性を強調し、堀田氏は「働ける時間(体力)を一つの基準にしてよい」と提案。加藤氏は成果主義から距離を置いた「ゆるい所属」が認められる社会への期待を述べました。

共通して語られたのは、支援を受ける存在としてではなく、一人の社会の担い手として尊重されること、そして就職以外の働き方・生き方の多様性を、早い段階から伝えていく必要性でした。

また、公的制度の枠外で行われているこうした取り組みに対し、堀田氏の提唱する「のりしろのある支援として、今後ますます重要になる」という期待が共有されました。

最後に登壇者それぞれが、岐阜の発達障害者支援の取り組みについて、地域連携の強化、支援者の意識改革、AI技術の活用、多様な働き方の推進など、具体的な一歩を提示し、シンポジウムは締めくくられました。

参加者された方からは

  • 学齢期から社会への移行を切れ目なく支える必要性が具体的に理解できた
  • 教育・医療・福祉・大学など異なる立場の話を一度に聞けたことが貴重だった

という声が聞かれました。

本講演会を通じて、発達障害を一人ひとりの特性だけで見るのではなく、学校や職場、周囲の関わり方など、環境との関係の中で考えることの大切を知ることができ、支援する側自身がこれまでの考え方や関わり方を振り返るきっかけになったという声も多く聞かれました。

また、当事者理解を大切にした支援を日々の実践に生かしていきたい、他の機関や分野とより連携を深めていきたいという声がきかれ、今後の支援の向上や地域での協力につながる機会となりました。

▼新聞にもとりあげていただきました

岐阜新聞デジタル(2026/01/26) (有料記事)